予備知識: リリーの保護魔法

ハリーはヴォルディモートが殺しそこなった唯一の人物であった。ハリーが魔法界で有名人になるのはこの事実による。ヴォルディモートがハリーを殺せなかったのはリリーの保護魔法のおかげである。しかしこの保護魔法については残念ながら本編中で詳しく語られておらず分からない点が多い。

まず魔法の効果について確認する。ハリーが保護されている間はヴォルディモートは呪文で殺すことができない。呪文でハリーを攻撃すると反射されて帰ってくる。また直接ハリーの体に接触するとダメージを受ける。この保護魔法はハリーが17歳になるまで有効であり、かつハリーがダーズリー家を「我が家」と呼んでいる間のみ有効である。これらは本編中に描写がある。

しかし保護魔法の効果がヴォルディモートだけを対象にしているのかそれとも他のあらゆる攻撃を対象にしているのか明らかでない。もしヴォルディモートだけを対象にしているのであればデスイーターがハリーを殺せばそれでヴォルディモートは勝利できたことになる。 4巻でヴォルディモートはハリーにcrucioをかけて呪文が反射されることなく効果を発揮していることから保護魔法はAvada Kedavraにのみ有効であるという解釈もある。一方7巻でもヴォルディモートはハリーにcrucioをかけているがその時は呪文は反射せずに命中したがcrucioの効果が発生していない。この現象はワンドの所有権を利用した解釈も考えられるがその解釈では別の矛盾が発生するため、納得のできる説明は今のところない。 7巻でハリーが水中で溺れそうになるシーンがあることから溺死のような場合には保護は働かないことが分かる。したがって魔法を使わない手段であればヴォルディモートはハリーを簡単に殺せたのかもしれない。

保護魔法をかける方法については本編に記述されていないが JKRがインタヴューに答えている。それによるとリリーが自覚して意図的に保護魔法を使ったのではなく保護魔法が発生する条件を満たしていたので自動的に保護魔法が働いたということのようだ。その条件というのは Avada Kedavraを使って脅されているものの自分が逃げようと思えば逃げられる状況にあるにも関わらず自己の決断として他人を守るために犠牲になって死ぬことである。

JKRの保護魔法についての説明にはいくつかの謎がある。ヴォルディモートやデスイーターが誰かを殺すのにほとんどいつも Avada Kedavraを使っていたことを考えると保護魔法を他の人が使ったことがないという説明は奇妙である。ハリーがヴォルディモートの殺害を免れたただ一人の人物であった、つまりヴォルディモートが誰かを殺害する時に保護魔法が発生していないだけではなく、ヴォルディモートとは関係のない別人が Avada Kedavraを使う場合にも保護魔法が発生した例はないと JKRは言っている。

ダンブルドアは保護魔法がちゃんと機能するように補助的な魔法を使っていた。ハリーに対してリリーの保護魔法がハリーが17歳になるまで有効であり、かつハリーがダーズリー家を「我が家」と呼んでいる間のみ有効であると説明していた。このことからダンブルドアは保護魔法について詳しく知っていたように思われる。リリーの保護魔法が長い期間有効だったのはダンブルドアの影響であった可能性がある。一方で魔法界ではハリーがヴォルディモートから生き延びた理由が長い間、謎であったからダンブルドアは保護魔法について世間に公表していないように思われる。例え自分の命を犠牲にしてでも家族を守りたいと考える親は殺伐とした魔法界であってもいただろうから、ダンブルドアが公表しなかったのは奇妙であり、また間違いなく意図的であったろう。また一方でダンブルドアは保護魔法が古い魔法であると言っているので一部の識者はこの保護魔法について知っていた可能性もある。

ハリーはHorcruxであるのでヴォルディモートを倒す前に死ななければならない運命にあった。ダンブルドアの最初の計画ではハリーを死なせるつもりだった。ハリーが死なずに済んだのはヴォルディモートがハリーの血を使って肉体を再生したためリリーの保護魔法の有効期間が延長したからである。しかしダンブルドアはあくまでもハリーがヴォルディモートと直接対決することにこだわった。この理由は身内でハリーを殺すのは後味が悪く、またハリーが自発的にAvada Kedavraを受けて死ぬ決断をすることでそれ以外の味方に保護魔法を発生させるためだったとする説が有力である。